自然の理に逆らわない器
渡邊心平(しんぺい)
焼き物の街佐賀県伊万里市で、若い二人が共に窯を始めた。その窯の名前は「只々堂窯(たたどうがま)」。二人は器のあるべき自然な姿を試行錯誤しながら、器作りに励んでいる。心平さんは、日が長くなる夏になると、自転車に乗って旧道を走りいくのが好きだという。新しくて大きな道は、利便性だけを優先して山や川を無理やり横切っていく。旧道は自然に逆らわない感じ。例えば、多少遠回りでも難所は避け歩きやすいように作られているところが、面白いのだとか。そんなことを考えながら自転車に乗っているとついついニヤニヤしてしまうという。
何とも個性的な心平さんだが、彼らの生み出す作品を手に取ってみると、彼の言わんとすることがわかってくる。二人が作る器は、まさに旧道的な要素が詰まっている。自然の理に逆らわない、自然な器。器が使い手に要求してくることはなにもない。自然と器が手に馴染んでくる。何かを飲もうとすれば器が自然と口に馴染むし、器を持ち上げようとすれば自然と器のどこかに指がかかる。二人が作る器の美しさの根底にあるのは、自然と使い手に馴染む心地よさなのである。